選択し

 全力で泣き、笑い、憎み、惑い、そうして生きた愚者こそが、本物の賢者なのではないか。  こんな事を考えるのは本当に無駄だと彼女は思う。  別に賢者になりたいわけではないが、けれど今だけは一瞬でも近づかなければならなかった。  吸って、吐いて、吸って――繰り返して答えを出した。 「いいわ、器に入る。たとえ記憶が消えなくて、人の心のまま動物になったとしても自分から死なないって約束する。でも後の人生は――人生って言っていいのかわからないけど、とにかく好きなように生きて死ぬ」  それでいい、と確かに聞く。肉声ではない歌うような声だった。  透き通り波紋のように広がる声音に耳を傾けながら、もう形の無くなっていた彼女は、胎動を巡り死にかけた器に流れ込む。  見えないはずの視界が白く塗りつぶされ、思い出した。  一番最初に生を受けたあの痛みを。  歓喜の声を彼女は聞いた。