呪術師の娘

 私は姉にあまり似ていないと言われる。外見もそうだが内面も。確かに面倒そうなことは避けて通りたいし、部屋の隅にいると何だか安心してしまう。それは、昔母に抱かれていたころ家がとても狭かったせいもあるだろう。姉達はめんどくさがりな面もあるが、おおむね外で遊ぶ方を好むタイプだった。  私の母はお茶目な可愛い女性だが、ちょっと頼りない。よく躓くし――これは、子供のころ足を痛めたせいで関節に少し問題があるかららしい。日常生活には支障はないとのことだ――あまり頭がよくない。  そんな母親を持ったら子供は反面教師としてしっかりするのではと思うことだろうが、そうならなかった事が残念だ。  言っておくが、長女はかなりしっかりしている。私達の面倒に食事に洗濯。……あまりのシンデレラっぷりに罪悪感を持ってお手伝いしてしまうのは仕方ないと思う。母に任せると何かが大変な事になるのだ。  そんな女ばかりの家族に新しい父親がやって来たのは今から五年前。私が十歳かそこらの歳だった。  最初の父親は戦争でずいぶん前に死んでしまった。長女が三歳のころだったので、私は母の腹の中だった。  新しい父親は、なぜかとても身分の高い騎士だった。どこかの貴族の三男で騎士団に入って近衛という死ぬほど危ない職業についていた。とある事件で母が巻き込まれたときに出会ったという二人は、こちらが居たたまれ無くなるほど仲が良い。  新しい父親が来た当初、私達姉妹はとても戸惑ったのだが母が幸せそうにウエディングドレスを着るのを見て少しほっとした。  そうして名前が変わり、住む場所も土地もびっくりするくらい大きくて清潔な所に移ったのが遠い日の思い出となっていた。  だが、心配事はつきない。私は家族の行く末がとても気になっていた。  長女のアリアは19歳になった。近所でも評判の働き者でとても優しいが、母に似て鈍感なので行き遅れ気味である。宿屋の息子マートンががんばってお嫁さんにもらおうとしているので、妹たる私と次女は彼に協力してあげている。  次女のサリーシャは猫のように気まぐれでふらふらとしている。狭いところに挟まっていることが多いが、可愛らしく心根の優しいところがある。かまいたがりの騎士見習いトンガがお嫁にもらうのは確実だったのでこれも心配していない。  私が一番心配しているのは新しい父親のことだ。ハンサムで外見もよくてちょっとお茶目で素敵な父親なので外に女を作るのではないかとヒヤヒヤしている。今のところは大丈夫。母にべったりだ。  それから父についてもう一つ心配なのが先ほども言ったが、いつ死んでもおかしくないということだ。  この国は豊かな小国。いつも物騒な空気に包まれ王の回りには暗殺者がはびこり、怪我人や死人の話も少なくない。  だから私は一つ呪いをかけた。  母を愛する間、父はあらゆる厄災から守られる。例えば病気、怪我、空腹や命を脅かす呪いから身を守ること、毒を浄化すること。些細な怪我は治りをはやくすること。  その呪いをかけるために代償を払ったけれど、私は後悔をしていなかった。 「リリカ! どこにいるんですか、出てきなさい!!」  ただ、ばれたときの事は考えていなかった。 ★★★  一年前の事だ。  毒霧の中でたった一人、王を守った父に呪いがかかっていることがばれてしまった。  他の近衛は未だに毒にやられてしまったし、国王陛下も命に別状はないが床に伏して出てこられない。  その事実はあっという間に広まってしまった。  父は当然心当たりなどなく、あらぬ疑いをかけられた。が、呪術の形跡をたどった宮廷魔術師に私は発見されてしまい、事は意外な方向へ転がった。  私は屋根裏部屋のほこりっぽい布にくるまりながら小さく震えていた。ぐすぐすと涙が止まらないし、張られた頬は火がついたように赤かった。 「リリカ! このぐず、いったいどこにいるんですか!!」  自分を呼ぶ声に怯えながら私はただ震えた。  夕暮れになったのだろうか。私は腹を空かせながらただじっと隠れていた。涙は止まったが、頬は完全に腫れてしまった。鏡があれば手形がくっきりと浮かんでいるのを確かめられただろう。 「ここにいた」  疲れたような声音にびくりとして立ち上がった。舞い降りる埃で咽せながら命を追われた小動物のように心臓が縮み上がっていた。もつれる足を叱咤して窓にかじりつけば、襟首をつままれタライのように担ぎ上げられた。  こうなってしまうともう抵抗すら意味を成さなかった。私はただ暴れるのをやめてフードを深く被った。涙がまた零れた。  私を捜し当てた男は屋根裏から下りると侍女を呼びつけて風呂の支度をするように言いつけた。私も彼も埃まみれだった。  侍女は嫌そうにその場で埃を落として去ると、箒とちりとりを持って私達を追い出した。 「お前はどうしていつも逃げる。今日もルリリラが酷い剣幕でお前を捜していたぞ」  ルリリラとは、私に付けられた侍女のような人だ。  怯えたように身をすくませると、私は部屋のソファーに置物のように転がされた。 「着替えて食事をとれ。湯に浸かって、ちゃんと暖まれ」  返事もできない私を一瞥することもなく、彼はどこかへ行った。おそらく温かい湯に浸かりに行ったのだろう。私は凄い剣幕でやって来たルリリラによって水風呂に放り込まれた。  彼女がいなくなったあと、呪術を浸かって埃と水滴をはらった。季節は冬で、体が芯まで冷えてしまった。 *  私が父に呪術をかけた事が知られると、蜂を突いたような大騒ぎになった。家族全員が念入りに調べられ、長年込められた呪術に魔術師達は言葉を失った。父と同じく、私の母や姉達にも全身を覆うように呪術が施されていたからだ。  家族にたくさんの呪いをかけることを私は戸惑わなかった。  私の産みの父親はたいそうな呪術師だったが孤児だった。父が残した本に興味を持ったのも扱えるのも私だけだったし、その本も今となっては灰になっている。――呪術の本は順番通りに読まなければならないし、最後の一冊を読み終えたとき全て灰となってしまったのだ。  呪術師というのは魔術師よりも劣った忌まれる存在ではあったが、巨大な呪いの力を持っていた。数は大陸中の呪術師を集めても数えるほど。父がどうして呪術師になったのかと言う経緯も旅の気まぐれな呪術師に教えられたからで、ほとんど独学だった。  つまり、父の残した呪術は誰も見たこともない呪いばかりだったのだ。当然解き方は私しか知らない。  それに目を付けた王侯貴族達は私を危険視し、もしくは有用な存在として連れ去ろうとした。  呪術師としての自分の価値を当時の私はよくわかっていなかった。生まれたときには母や姉達には父の呪術が絡みついていたし、家の中にも回りにも、街の至る所に呪いがかかっていたのだ。それが見えるのは私だけというのは幼少のころに知っていたが、私は街の光景を見て「呪いは日常で使われている」と思い込んでしまったのだ。  思えば外から来た人間には呪術の気配はなく、引越し先はなんの呪術も施されていなかった。  私は呪術がないことを疑問に思うこともなく、屋敷もその周りにもたくさんの呪いを貼り付けてしまったのだ。周辺に呪術師がいればすぐに話しかけ、その愚かしい行為の恐ろしさを知り得たはずだが、当時12歳だった私は本当に、それが尋常ではないことなどわからなかったのだ。父の書物のどれにも、そんなことは書かれていなかった。  父の扱う呪術の多くは代償を多かれ少なかれ必要としていた。新しい父親に呪いをかけたときの代償は、私の健康だった。 「君はどうして他人のために身を削るんだね」  宮廷魔術師はそう言ったが、私には何のことかさっぱりわからなかった。新しい父親に呪術をかけるのは他でもない、私の安心のためだったのだから。  しかし新しい父親は、そう思わなかった。 ★★★  呪術師たる私にたくさんの事をやらせようとする人間が現れるようになった。呪い殺してほしい人物がいると言われて私は首を振り、不幸にしてほしいと頼まれては首を振り、国のために働けと命令が下れば首を振った。  けっきょく最後の命令には逆らえなかった。私は家族を人質に取られてしまった。  逆らえない私は命を絶って終わりにしようと思ったのだが、この屋敷の主に捕まり、厳重な魔法をかけられた。屋敷の主はあれ以来あっていないが、とにかく私を監禁して言うことを聞くように説得するつもりらしかった。  私を屋根裏部屋から引きはがした男はその手下だ。名前は聞いたが忘れてしまった。とにかくあの男も魔術師で、自傷行為ができないように私に魔術をかけたのだ。  屋敷に閉じ込められてしばらくはうるさかったが、今は静かだった。私は家族に会えないまま、手紙のやりとりも禁止されてとても心細い思いをしていた。  叩かれた頬は翌朝目覚めると青紫色に変色した。爪が当たった所が腫れ上がって特に酷い。見られたらきっとうるさく言われるだろうとフードに呪いをかけて傷が目立たないようにした。  屋敷はとても立派だったが私には居心地が悪かった。室内でもフードを被って体を小さくして暮らす事になった。小さくなって暮らす事には慣れていたのだが屋敷の使用人達はすぐに私を煩わしく思い、気味悪がった。  叩かれたのは食事を要求しに厨房に入ったときだ。泥棒だとか、毒殺がどうのこうのとわめかれてトレーや手でさんざんに殴りつけられた。  芯まで冷え切った体に空腹は堪えた。  最初に面倒を見ると紹介された女性は一週間もすると来なくなった。そのほうがせいせいするが部屋の掃除をしないと、なぜか私が叩かれる。  膝を抱えながら家に帰りたいと思った。  あの呪術で守られた安心できる我が家に帰りたかった。 (そうだ、帰ろう)  幸い、週に1、2度男が確認するときにしか使用人は私の事を捜さない。  私は思いついた。  自分にそっくりな人形を作れば良いのだ。  それに生活をさせればいい。食事がいらないから殴られることもなく、部屋を掃除するように作っておけば叩かれる事はないだろう。  私はさっそく、厩の藁をくすねて人形を作った。自分の顔そっくりに見えるよう呪術を使い、たくさんの命令をいれて人間のように行動できるようにする。対価は私の髪を使った。私の髪はとても長かったから、肩まで切って編み込んだ。  作り終えるのに三日もかかってしまった。その間にもう一度男が様子を見に来たとき、それが見つかってしまった。 「お前、一人で家に帰れるか」  頭を庇った私に、男は不思議な事を言った。  家に帰るくらい、一人でできる。 「その藁人形ができたら、こっそり屋敷を抜け出しなさい。今から二日後に警備は手薄になる。これを持っていれば悪い事はおきないだろう」  そう言って、私の耳に何かを付けた。 「それから、事が一段落したら迎えに行く。家で待ってなさい」  去り際にするりと男が頬をなでると、驚くほど簡単にじくじくとした痛みがとれた。鏡を見ても痕はなく、つるりとした肌があるだけだった。  私は二日後、藁人形を身代わりにして屋敷を出た。警備は手薄になっていた。男の言ったことは本当だった。 *  久しぶりに出た外はよくわからなかった。道行く人に家の住所を聞き、家にたどり着いたのは夕方になってからだった。優しい夕食の臭いに鼻をひくつかせながら帰ると驚いた母が抱きしめてくれた。  優しくて良い匂いがして、暖かくて涙が零れた。反対に私は痩せてて臭くてとても冷えていた。  母に帰ってきた事を伝えると、サリーシャがお湯を沸かしてくれた。いつも池に突き落とされたり水風呂にたたき落とされたりしていたために髪は絡まったり傷んで大変だった。サリーシャは泣きながら、私の体についた一つ一つの傷を数えて優しく手当てしてくれた。  やっと体が清潔になってご飯に呼ばれると、久しぶりにお腹いっぱい食べさせてもらった。夕食時になると聞きつけたアリアも帰ってきていた。どうやら、母が呼びに行ってくれたらしい。  久しぶりにあえて喜んでいると、かかとを高く鳴らした父が帰ってきた。父は怒ったような顔で私を睨んだと思ったら突然泣き出してしまった。  それから話を聞かされて驚いた。自分では家族のために仕方なく家を出たと思っていたが、なんと私は攫われていたらしい。間抜けなことだ。  なぜか、その日は家族皆で一緒に寝ることになった。私は久しぶりに皆に会えて嬉しかったから喜んだ。思えば屋敷に閉じ込められてから一年以上あっていなかったわけである。  たくさん頭をなでられて私はやっと安心して眠った。  ただ、耳に付けられた飾りがとれなくなっていたことが気がかりだった。 ★★★  私の末の妹はとても変わっている。私が働き蜂ならあの子はナマケモノとコアラを足したような人間だ。いつも同じ場所にいるしあまり動かない。ぼけっとしているし、本を読むのが好きだった。  父の形見の本は私達には難しくて読めない物が多かったが、リリカはよくわかるようだった。まさか呪術の本とは思わず、勉強熱心だから将来は文官かお店の経理なんかをやったらどうだろう、と密かに思っていた。  私達の父親は私が三歳の時に死んでしまったけれど、たくさんのお金と家を残してくれたから、私達はそれなりに裕福だったし、幸せだった。今思えば呪術師を父親に持つのに周辺があれほど平和だったのは、父がそこら中に私達を隠す呪術と危険から守ってくれる呪いをかけていたからだ。  父が死んでからは呪いが薄くなる前にリリカがかけ直してくれたのも大きかったのだろう。  リリカが学んだ父の呪いは大変強いものらしい。呪術師というと陰険で危険な職業のようだが、リリカと父の呪術は祝福だと思っている。代償のいる、とても危険な祝福だ。  母が新しい父親となる人を連れてきたとき、リリカは絶対に近づかなかった。遠くでいつも観察して何かを考えているようだった。時々王宮へ行って、父――クラフト父さんの仕事ぶりをこっそり見に行ってもいたらしい。今思えば、どんな呪いをかけようか考えていたのだろう。  自分の健康を代償に父さんに呪いをかけたと知ったときは一家総出で解くように説得した。リリカだけおやつの王都の高級スイーツを抜いてひもじい思いをさせるのは忍びなかったが、頑固だった。  後で聞いたが、サーシャが一口だけわけていたらしい。ひもじい思いをしている妹を思って胃を痛めていた私の苦労を返してほしい。サーシャは一発殴ってやった。  不健康になってもリリカの体長にそれほど変化はなかったと思う。あの子は体が丈夫になる呪いを自分にかけていたのだ。  呪いの代償は大抵はリリカの髪でまかなわれていた。そう言えば、あの子は自分の散髪は自分でやるし、いつも腰を越えるほど長く伸ばしていた。  父が暗殺者に襲われ、同僚が瀕死だというのにぴんぴんして帰ってきた後から大変な目にあった。父は疑われるし、疑いが晴れたと思ったらリリカはつれて行かれてしまった。家族がそれぞれ仕事や買い物に出かけたほんの少しの隙をつかれてしまったのだ。  それ以前にも頻繁に誘拐されて帰ってくるときがあったのだが、今回は長い間帰ってこなかった。母は取り乱し、父は捜索願を出した。猫のように狭いところに挟まってばかりいたサーシャすら外に出て泥だらけになって帰ってくるようになった。  私だけは仕事をきちんとやりながら探偵やお客さんに聞き込みを進めていた。  一年経っても戻ってこなかったリリカがひょっこり戻ってきたとき本当に安心した。話を聞けばどこかの屋敷で虐待されていたのだ。私の妹を! 虐待していた!!  報復しなければならない。一年でできた人脈を駆使してあらゆる報復措置を誓った後、リリカのためにたくさん美味しい物を作ってあげた。いつもひもじい思いをしていたのか、嫌いなピギマンまでおいしい、おいしいと食べていた。涙ぐんでしまった。  リリカの体には叩かれた痕があり、憤慨しながら眠った。  しかし、思えば私の怒りなど、父や母の怒りに比べれば生やさしい物だったのだろう。  サリーシャは泥だらけになっている間、なぜか他国の王子と知り合いになり、作った貸しで全力投球の報復を計画した。父は持ち前の権力を駆使し、母は前の父さんが残した呪いの藁人形を握りしめた。  私が取った間接的な没落計画など生やさしい物だったのだ。 ★★★ 「リリカ、ほっぺたはもう痛くないかい?」  小さく頷いて目元を染める娘は「もう大丈夫よ」と小さく呟いた。もともとあまりお喋りではないので声が小さい。もじもじしているから何か言いたいことがあるのだろうが。  娘が虐待を受けて帰ってきたときは、どうやって相手を殺せば良いのか眠れぬ夜を過ごしたものだが、もういろいろと片付いて今は一段落している。  末の娘となった女の子は姉妹の中で一番ちんまりとしていた。血が繋がっていないが大切な娘である。 「お、お父さん、弟……」 「だめだ」 「でも……」  言いたいことが一瞬でわかった。それもこれも長年見守ってきた成果である。憎いことに一年間の空白期間が空いてしまったが――いや、これ以上考えるとまた頭が沸騰しそうになるのでやめよう。相手は屈辱の末、墓の中にいるのだから。  弟とは娶った妻との間に生まれた子供だ。もうすぐ生後三ヶ月になる。 「だめだ。っ口を尖らせてもだめ。上目遣いしてもだめ!」  もう一度言うとかわいそうなくらいシュンとなってしまった。  父親が戦争で死んだためか身内に呪いをかけたがる困った癖を持ってしまったようだ。生まれたばかりの弟にも呪いをかけたくてしかたないらしい。いつもソワソワしているのがその証拠だ。私が父親になったころも、ソワソワとこちらを伺っていたのを覚えている。  最初は拒絶されているのかと思ったのだが、こっそり仕事場に見学に来たときのかわいさといったら……。くっと思わず声が漏れてしまった。  しかし、駄目なものは駄目なのである。  それよりも、最近娘ほしさに言い寄る男共をどうやって始末しようか。宿屋の男はまぁ……根性はあると認めてやってもいい。サリーシャの幼なじみは……まぁ気骨があるだろう。だがしかし! リリカは嫁にやらん。少なくともあのクソ生意気な王太子とハイエナのような親戚共には!!  どこかに、リリカが幸せにしてくれるような男はいないだろうか。 ★★★  屋敷での記憶が薄れるころ、弟が一歳になった。可愛い。死ぬほ可愛いと家族で可愛いがっている。可愛いのだからしかたない可愛い可愛い……。  そう思ってたら「そんなに子供が可愛いならたくさん生めば良いんじゃないか」と、ある日突然やってきた男がそんな事を言った。  屋敷にいた、あの変な使用人だ。私は未だに耳飾りがとれないので困っていると言えば、それには持ち主の身を守る魔術が込められているから、外してはいけないと言われた。それからもう一つ、お前の産みの父親には大変世話になった。父親がお前にかけられなかった呪いの代わりに、これからずっと俺がお前に魔術をかける、とも言った。  困惑して見つめれば、彼は跪いて言った。 「リリカ・フォン・ファブリーデ。私の所に嫁いでいただけないか。戦場で死ぬはずだった私にあなたの父は呪いをかけた。その時の呪いは君にかけようとあいつが楽しみにしていた物だったのだ。私は生きたが呪いをかけたせいで、君の父親は死んでしまった」  すっかり家で待っていろと言う言葉を忘れていた私は背後で怖い顔をする父を見上げてお父さん、と呟いた。