自分以外に知らないからだ

「お兄ちゃん!!」  兵士に導かれ領主家の門に差し掛かったとき、悲痛な呼びかけが響いた。  逃げる人混みでごった返したそこには、ありったけの馬車と衛士達の先導、荷物を持った人々の不安そうな顔ばかり。  走り寄ってきた少女もそうだ。幼い顔を不安で埋め尽くし、カルフの腰に抱きつく。 「どこに行くの、行かないで!!」 「ミーファ」  お早く、と立ち止まった三人に兵士の叱咤が飛ぶ。 「離すんだミーファ、兄ちゃんはこれから戦場に行かないと」 「ダメだよ、一緒に逃げようよ! ここはもうお終いだって皆言ってるのに、なんでお兄ちゃんは行くの!」 「母さんはどうした? 一緒に行け。いい子だから」  でも、とむずがる妹を強引に引きはがせば、追ってきた母親が息子達を見つけて立ち止まる。 「母さん、ちゃんと手を繋いでてくれよ」 「……お前」  母親の胸に妹を押し込んでカルフは一歩下がった。それを見て悲痛な顔をする母親はちらりとハルを見てカルフを見上げる。 「お前が行かないとダメないのかい? 昔っから兄ちゃんにやられてべそ掻いてたのに、何ができるってんだい」 「すまないが、悠長に別れを惜しんでられないんだ。出遅れてるし」  それは起こさなかったモリトと寝入ったハルのせいでもあるが、朝から責めてきた悪魔が原因である。  しかし母親の目は厳しくハルに注がれ、その様子をカルフは咎める。 「あんたが行ったって、犬死にじゃないか!」 「そうだよ、それでも行くんだ」  たかだか銀行員だが、されど彼には庇護がある。一人の銀行員のために警備部隊が出る。本当に死んだとなれば、警備部隊は総出となっても報復するだろう。それが銀行の意志でなくとも、絶対に。むしろ、自分は死ぬべきだとすら思えてくる不思議に、カルフは失笑した。 「ごめんな」 「やめとくれよ! 今ならどうにかなるだろう!!」 「そうだ、どうにかなるかもしれない。だから行くんだ」 「止めてよ! そうやっていつも一人で考えて、達観して、わかった風に私達家族のこと置き去りにして!! 死んじゃったらもう終わりなのよ!」  母の胸から妹が叫び、痛みを我慢するようにカルフの頬が引きつる。 「銀行に就職するときだって、あっという間に移動になったときだってそうだったわ!」 「許してくれとは言わないし、残される母さん達は辛いと思う。でも、終わらせないといけない」 「カルフさん、これ以上は待てないわ」 「今行きます! そういう事だから、達者で暮らせ!」 「お兄ちゃん!!」  周囲は人だかりで馬は使えない。じれた兵士に謝りつつカルフは走り出す。その後にモリトとハルが続き――振り返れば悲しみに暮れた母子の姿がある。目が合い、母親は睨みつけ、妹は涙をこぼす。モリトが小さく手を振ると、二人はそろって驚いた顔をして、そして何かに気付いたような、愕然とした顔をする。  視線を戻すとカルフの背中が見えた。 「死なせないよ」  モリトはそう言って、ハルの手を握る。見やるとまっすぐ前を向いたまま続ける。 「ボクはこの先を見るんだ、絶対に」  薄ら寒い物を感じながらハルは無言をつらぬいた。  一言でも言えば何かが壊れてしまいそうな、そんな気がしたから。  既に戦闘は開始されている。  死屍累累。悪魔もそうでない者達も入り乱れて倒れている。戦いはほんの数十分で一時間にも及んでいない。けれど彼らは限界で、鍔迫り合いの音は確実に減っている。 「戦況は」 「かろうじて保ってるが、もう限界です。避難はどうなっていますか」 「五割は終了した」  案内の兵士とはそこで別れ、苦しい沈黙の横を通り過ぎ、簡易テントの向う側を見つめる。 「二人とも、こっちへ」  カルフの瞳から緑色の光がはじけ、ハルとモリトは自分の皮膚が一枚増えたような奇妙な感覚に包まれた。 「ある程度の剣なら防げるそうです。覚えたてであまり長く持ちませんが、無いよりマシでしょう」 「ありがとうございます」 「あまり離れすぎないように」  刃物など包丁程度しか持ったことの無いカルフは鉄の棍棒を持ち、モリトは現地調達するため悪魔に走って行った。ハルは油断無く鉄剣を構え、森の影へ身を潜めた。  遠目でも中央の乱戦が目立つ。巨大な悪魔がハルバードを振るい、黒い制服の一団達が吹き飛ばされては群がりを繰り返す。その中にサリバンを見つけた。しぶとく生き残っているようだ。 「あそこへ行きましょう」  木々の間から周囲を警戒していたハルははっと振り返る。すでに走り出したカルフは一直線に乱戦の中へ身を投じてしまう。モリトは油断した悪魔を拾い上げ、叩き付けて殴り飛ばし、そうやって両手を汚し、カルフに並ぶ。 「待ってモリト! カルフさんも」 「待てません!」 「よーし、行くね!」  悪魔を放り捨て、拾った弓に剥ぎ取った矢を番えたモリトは枝に飛び乗り、弦を引き絞る。地上十メートルを超えた地点で放たれた矢は木の間をすり抜け、まっすぐと巨大な悪魔に吸い込まれていく。が、振り上げたハルバードの先で払われる。悪魔がちらりとこちらを見やり、咆哮を上げた。  離れていてもわかる大声に鼓膜を破られた者もいただろう。よろめいた彼らを見もせず両者は突進する。  悪魔に触れた木が風船のようにはじけて飛ぶのを見ながら、モリトは着地と同時に拾った死体で殴りつけた。ハルバードがそれを真っ二つに裂くと同時に、眼前に迫ったハルの切っ先が悪魔の瞼をかすめる。黒い血が噴き出した。  素早く相手を見定めたハルは瞼を閉じた。右目が赤く光る刹那、悪魔は叫ぶ。 「我が名はアエー! 第百二十三代目魔王シティパティ様を守る近衛一の武勇を持つ! 貴様らのどちらが神獣か!」  神獣が「神木」と「獣」という意味ならどちらも正解だが、この場合は違うだろう。ハルは一度、その呼び方をされたことを覚えている。  油断無く剣を構え腰を落とした。 「わたしよ」  たん、と踵を鳴らし進み出る。  周囲を蹴散らすように一線。たったそれだけで巻き起こされた暴風が周囲を吹き飛ばし、道を空ける。 「では、参る!」 「モリトは下がってカルフさんと一緒にいて。わたしはしばらく、アレの相手をするわ」 「ハルさん、すみません! あちらの手助けに行きます!」 「えっ」 「ボクも行く!」 「待って! っもう!!」  ハルバートが風を切り突進してくる。伏せて除け、ハルは股ぐらに忍び込むと転がっていた棍棒で股ぐらを叩いた。  ゴン。と凄まじい音と共に覆っていた部分がかすかにへこむ。右足に叩き付けられた棍棒が砕けると同時に、覆っていた鎧の足の部分もえぐれ、地肌に傷をつけた。 「カカカ! そのなりで合金製の鎧を剥がすか」  大きく後退し、二人は睨み合った。 「今すぐ、この場から引いて魔界に帰りなさい。見逃してあげる」 「それはできぬ相談だ。神獣を倒し、海も空も大地も異界も魔王様の御前に献上するのでな!」 「良い趣味とは言えないわね」 「威勢のいい小娘め!」  三日月形の刃先が翻り、切っ先が突撃する。  死闘が始まった。  身をひねり突き上げ、切り下げ交わし、地面に手をつきバク転のついでに蹴り上げる。折れそうになるほど上半身をくねらせ鉄剣を降り、刃を弾いて敵に叩き付ける。  確実にアエーは傷を作り、右指の骨を折った。しかしハルも頬に裂傷を負い、ベヒモスの奇襲に神経を削られている。  小球を切り飛ばせば笑い声が響く。 「雷撃が効かぬか! カカカ! その鉄剣、誰が鍛えた!」 「耳にうるさい、笑い声ね! ぐ、ぁあっ――くっ」  突き出した腕を絡め取られ、強烈な膝蹴りが腹に直撃した。息を詰めて痛みをやり過ごし、変わりというように顔面に拳をくりだした。  アエーは額当を粉々に砕かれ膝をつき、ハルは反動で転がった。  ほぼ同時に立ち上がる。  小球が追撃した。半身をそらして避ける。服の表面が焦げ付き、異臭が鼻についた。 「ベヒモス、撃て!」 「っやらせるわけがない!」  横合いから飛び出したサリバンが、長剣を滑らせた。アエーの耳たぶをかすり、油断した死角からもう一人。曲刀が首元の鉄の覆いを削る。 「頭ぁ、キンキンしやがるぜ!」  至近距離からの咆哮に目眩が収まらないラセットが額を押さえながら吐きすてる。 「ったく、嬢ちゃんには感謝するぜ。付け焼き刃でも癒やしが仕えりゃ優秀だ。あのくそったれな警備員を連れてきたのには顔を顰めずにはいられねぇが」 「さっき喜んでたじゃないか、どう言う心境の変化だ?」 「喜んでねぇよ!! 俺らハンターは死んでもあいつらが嫌いなんだ! おっかねぇったらありゃしねぇ」  ちらりと後ろを見やれば、咆哮にやられた面々にカルフが癒やしをかけている。目覚めた警備兵がカルフを見つけ、ハルを認め、怒声を上げて殴りかかっているが。 「つーことで、加勢に来た!」 「モリトの加勢に行ってほしいわ」 「馬鹿言え、怪獣大決戦だぞありゃ! 近づいただけでぺちゃんこだ」  小球を身軽に避け、ハルバードと打ち合い懐に潜り込んで殴りつける。  ちらりと横目で見れば、カルフを殴るのを止めた警備兵と共に死体の山を築き上げていた。 「それより君だ。勝てそうにないところに入った方がいいと思わないか……おっと失礼、そう睨まないでほしいが」 「キーキー鳴かないで。今、片付けようと思ってたところよ」 「なるほど、邪魔をして申し訳なかったな。しかし、手伝わせて貰おう。これでも王国騎士の中じゃ、腕の立つ方だからな!」 「なら何で、わたしをここへ連れてこようとしたの」  悪態は流され、三方向を固められた悪魔は構える。 「よそ見とは、余裕であるな!」  腕を振り上げて下ろす。たったそれだけの動作でベヒモスの雷撃は放たれる。五つの雷撃が戦地を抉った。  かわしたハルは、体の表面がぴりぴりと静電気を帯びるのがわかった。不愉快な感覚だ。これは何度味わっても慣れない。  そんな事を考えながら体は走り出している。  背後には雷撃にやられて炭化した者、火傷でのたうち回る者、様々にいる。うめき声は地獄からハルを手招く死者のようだ。  それらを振り切ってアエーの眼前に斬りかかる。ハルバードの先が右足を狙い、鉄剣を挟み込み剣の腹部分に足をつけた。体の軸が悲鳴を上げる。が、無視した。 「しまった!」  なぎ払う勢いに乗ったハルは高く打ち上げられ、後方に控えるベヒモスに躍りかかった。  鉄剣の先が右端の目玉に突き刺さる。そのまま横薙ぎにそぎ落とし絶命させ、顔面を蹴り宙返り。警戒して長い首を振り回した隣の一体が差し出す首を通り過ぎざまに切り落とし、中心にいた一番小柄なベヒモスの頭に捕まる。嫌がるように首を振る流れに乗るようにひねり殺せば、後退しようとした四体目が威嚇の声を上げた。  ひねり殺した一体を蹴り倒し四体目に押しつければ、バランスを崩し倒れ込む。ドミノのように四体目と五体目が転がり、地響きと振動で鳥達がわめき声を上げた。  森という場所で密集しなければならなかったのが敗因だ。  そんな事を考えながら、雷撃を無茶苦茶に発射して威嚇をとる四匹目の首を踏み折り、五匹目の首を飛ばし、ハルは振り返った。  構えた鉄剣に風を纏った刃が重なる。暴風が土埃を消し飛ばし、殺気をみなぎらせた双眸がハルを食い殺そうと牙を剥く。  双眸が危険な光を帯びていた。  瞬きの光は悪魔が術を使う相図だ。首をのけぞらせれば前髪がサクリと飛ぶ。後退し、追撃が顔面を狙う。  さらに後退すれば、ベヒモスの遺体にハルバードの切っ先が食い込んだ。血肉が飛び散り、黒い血がハルの右頬を濡らす。 「さすがは我らの天敵。……あの一瞬でこれか」 「褒めても何も出ないわよ? 一瞬でも目を離したら、次はお前の番」  狩人は獲物を得るために極限まで気配を消し、チャンスをうかがう。奇襲がハルの最も得意な狩りのやり方だ。刹那でも意識をそらした瞬間に、のど笛に噛みつくのだ。  三日月の刃がハル狙い服を切り裂いた。転がり避けた先を予想したように斬撃がついてくる。柔らかな皮膚が切れ、そこから熱い血がこぼれた。  と、追いついてきた二人が追撃からハルを守るように横合いから躍りかかる。 「私達のことは眼中にないか!」 「いいじゃねぇかよ旦那、生存率が上がるぜ!」 「小癪!」  土埃から小球が飛んでくる。数は三つ。  一つはハル。だが鉄剣で叩き切れば、火花のように雷撃が散った。  残りの二つは苛立ちを反映させたかのように、執拗に二人を襲った。普通ならば感電死してもおかしくない雷撃を短命種でありながら、二人は慣れたように避ける。 「何回見てると思ってんだよ、そろそろ目が慣れる頃合いだな!」  曲刀がアエーの柄を叩き、硬質な音が響く。二度打ち合い、ラセットが蹴り飛ばされた。ほとんど垂直になるほど体を折り曲げ、胃の中の物を吐き出す。追い打ちをかけるアエーの前にサリバンが滑り込んだ。踏み込み、たたき切ろうとするものの、鉄の鎧が邪魔をする。ハルバードの柄に長剣の先は弾かれた。 「傷をつけるだけでは吾輩に勝てぬぞ!」 「それはどうかなっ! ハル殿っ後は頼んだ!」  大ぶりの一撃。それは隙を産み、ハルバードの柄が胴を打った。剣の腹でかろうじて受けるも、腕力は叶わない。数十メートル飛ばされたサリバンは背中からまともに落ちた。  アエーはディアボラよりも強い。ディアボラは細身で力も弱く、魔術の威力も低かった。しかしアエーは違う。武人として鍛えた肉体に悪魔の筋肉。特性の雷撃を自由に操り体は鉄の鎧で覆っている。  力も戦争のやり方もハルより勝っている。  しかし、速さで負けるつもりはない。  狩人はしなやかに身をかがめ鉄剣をくわえた。音を立てず最速で走り出し、数十メートルの距離を一瞬で詰める。  筋肉が膨れ上がり風がすれ、頬に痛みを伴う。  アエーが振り返ったときには目前に迫っていただろう。それでも反射的にハルバードを振りかぶったのはさすがと言えた。  しかし、狙い通りだった。  自身を狙う斧の柄に飛びつき、ラセットとサリバンが切りつけ、わずかに入った亀裂を両手で握る。そこにはよく見ると、爪痕や他の刃で切りつけられた痕があった。警備部隊の面々と、サリバン達が根気強くつけていった痕。それがハルの勢いと体重で広がる。  みしり、みしり、みしり。  鉄で鍛えた柄がしなる。アエーが異常に気付いたときにはもう遅い。柄を割り切っ先をもぎ取ったハルはくるりと回った。鉄棒で逆上がりをするように。  アエーの右腕が唸る。小さな獲物を捕まえ砕こうとする指先を避け、一歩。左腕を踏みつける。一歩。肘に足をつき身をかがめる。一歩。右腕に持ったハルバードの先にはまだ雷撃の残りがあった。一歩。跳躍する。一歩。肩に乗り上げ、ハルバードの先を振りかぶった。 「がああああああああ!!」 「――っ!」  エディヴァルに、雷撃を防ぎきれる防具はない。それは悪魔も一緒だろうか。一緒だろう。それがたった今、証明された。  合金の鎧が雷撃によって発熱し、中のアエーを一瞬焼いた。  首を覆う鉄はハルバードの先で砕かれ、アエーの肩にめり込んだ。強靱な筋肉はそれだけで鎧となる。傷は思ったより浅い。だが、軽傷でも無い。  どうやら雷撃の影響は鎧だけのようだ。熱による火傷はあっても、雷撃による痺れや影響はなさそうだ。  この方法が効くのは防具だけなのか。それもそうだ。そもそも雷は感電する物であるし悪魔はあらゆる戦場でそれを扱う。体に電気を飼っているのだ。  では、その体は絶縁体なのだろうか。いいや、それならば電気を放電することも難しいのではないか。  思考しながら宙返り。アエーの視界からハルが消え、次の瞬間には逆の肩に重みを感じただろう。その時はもう、親愛を示すよう首筋に頬を寄せたハルは、用事を終えていた。  首にくわえた鉄剣が深々と突き刺さる。刀身から緩やかに口内に流れ込む血は芳醇ほうじゅんだった。舌に濃厚に溶け、力が張るような気がする。けれど爽やかな味わいで、フルーツを食べているようだ。  ディアボラのことを思い出した。彼も他者の血を飲むときは、こんな風味を感じるのだろうか。  アエーがかすかに何かつぶやくのを聞いたが、明確な言葉としてはわからない。  敗者は倒れる。土埃を巻き上げて。  静寂が広がる。悪魔は恐怖で、短命種は驚愕に。  巨体から鉄剣を引き抜き、血に濡れた口元を舐め上げた。  赤い舌が血よりも鮮明に脳裏に焼き付いたのだろうか。悪魔達は震え、喉奥で悲鳴を噛み殺した。声を上げた者から順番に噛み殺されるのを知っているかのように。  事実そうだ。  長寿の悪魔達は覚えている。  たった一匹の獣が何よりも恐ろしく、仲間の首を噛み砕いたことを。  悪魔達は忘れられない。  自分達が彼らにとって、極上の餌と認識されていることを。  ハルはその事を知らない。知らないが故に微笑む。心からうまい物を食べたように。鉄のように変わらない表情に笑みを作り、赤い舌で墨汁のような血を舐め取り、味わうように嚥下して。  そして、 「――あぁ」  感嘆のため息をついた。 「あっあっあああああ」 「アアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!」 「ア゛――!!」  気が狂ったかのような悲鳴を上げる悪魔。恐怖は伝染し、彼らを包み込んだ。  突然の変化に戸惑った短命種達は警戒するように後退した。しかし敵は一点を見つめ、目を見開き、絶叫するばかり。  異常な状況だった。訳のわからない恐怖は短命種達にも伝染し、戦場は狂人の巣窟と成り代わろうとしていた。  そのとき、 「わかるなぁ、その気持ち」  ぱちん、と指を鳴らす音。それは戦場に響いた。