獣はうずくまる

 戦場帰りの格好のまま、泥と血で汚れた男が立っている。注がれる視線はまっすハルを射貫き殺気のような威圧を放っていた。 「それは困るな。あなたはこの土地と心中する気かもしれないが、俺達は守らなければならないのでね」 「あなたは……」 「さっきぶりだね」  親しそうに目を向けてきたサリバンに、嫌な顔を返す。  不安そうな顔をしてモリトが服を引っ張った。彼はちら、とモリトに目を向けるとゆっくり歩み寄り膝をついた。 「君のお名前は? 俺は王国騎士、遊撃部隊所属サリバン・ランスロット。キツネの亜人だ」 「ボクはモリト。おじさん達は何の用?」 「お、おじっ。……いや、これくらいの年の子供からすれば俺はおじさんか。いいんだ、いいんだって」 「どうでもいいけど旦那、ここへは話しに来たんだろ? 相手はまだ治療もしてねぇんだから手っ取り早く済ませてやろうぜ」 「おじさんを否定してほしいんだが……」 「自分で納得したじゃねぇかよ」  後ろからぬ、と顔を出した野性味溢れる顔立ちの男は、モリトとハルをしげしげと見つめた。かなりぶしつけな視線だ。  それに比べるとサリバンは物腰が丁寧だ。そのぶん、警戒心も勝るが。  気を取り直したサリバンは「おほん」とわざとらしく咳払いする。 「それでだね、モリト君に頼み事があるんだ。ハルさんを貸してもらえないかな? 今、一人でも戦力が欲しいんだ」 「ハルは物じゃないよ。どうしてハルじゃなくてボクに聞くの?」 「おや、俺の予想は外れたのかな。ハルさんはモリト君を守ってるだろう?」  一瞬だけモリトの顔が陰った。それを見逃さない狐は、ほんのり微笑んだ。 「ふむ、じゃあハルさんがいいと言えばいいんだね? なるほど、わかった。――ハルさん、君の助力が欲しいんだ。力を貸してほしい」 「いやよ」  即答。ぐ、とサリバンが奥歯を噛んだのがわかる。 「現在、残っている兵は四百。しかし負傷者が多い。実質戦えるのはその半分越えるかどうかだ。対して相手の数は六百まぁ、かなり削ったと思うが、同じくらいと言える」 「それだけを聞くと条件は同じね。で、わざわざこの場で他人を巻き込んで話す理由は?」 「君は原種の限りなく濃い血をひいているんじゃないか?」  にわかに周囲がざわめいた。一時避難を終え帰り支度をしていた住人も、今回の侵攻軍によって家を壊された住人も、使用人も全て立ち止まり、ハルを見つめる。 「俺と同じ古代の血を引いている。その証に君は強かった」 「答えはいいえ、よ。原種ではないの」 「しかし、あの巨大なベヒモスをたった一人で倒したじゃないか!」  それはハルにではなく、周囲に向けての言葉だ。サリバンは大げさなほど腕を振ってその巨体を表現しようとしている。群衆の視線がハルに集中した。それは希望を宿した目だ。危険な光を、讃えた瞳だ。 「情けない話しだが、我々だけでは持ちこたえられない。せめて応援が到着するまで雇われては貰えないか」 「いやよ」 「紋章を持った悪魔は再びやってくるだろう。知ってるだろう、紋章の悪魔が現れたとき、戦場がどうなるか。滅びた国は一つ、二つじゃない」  そこかしこで悲鳴が上がる。とうとう来たのかという呻き声が鋭く響いた。自分達に関係がある事柄なら、気が遠くなるほどの過去の話を覚えているのだ。 「だから何だって言うの? あなた達は絶対的に勘違いしてるわ。わたしは英雄じゃ無い。傭兵でもない」  なんて安っぽい三文芝居だろうか。  今やハルの目は絶対的に冷たくなっている。戸惑うようなモリトが周囲を見渡す姿が純粋でかわいいくらいだ。 「無論、払う物はある」 「お金には困ってないの」 「オンドロードの融資者になった話は本当だったんだな。では名誉はどうだろう」 「紙くずにも劣るわ」 「なるほど。だが、見たところモリト君はいい所の出じゃないかな?」  おそらくサリバンは、お忍びに出てる貴族の坊ちゃん辺りにモリトをはめ込んだのだろう。ここで逃げれば家の恥になるぞと脅しているのだ。モリトが何か全くわかっていない愚かな試みだ。  短命種の基準で言えばモリトは国王よりも尊い、神にも近い存在だろう。  思わず嘲笑が零れた。 「あははははは!!」  生まれ変わって、初めて声を上げて笑ったかもしれない。なのに酷く心が冷えるのだ。  立て続けに美しい短命種にあったせいか、少しだけ忘れかけていたらしい。彼らが日々、どんなことを考えて、どう言う行動をとるのか。 「ハル……」  モリトはハルを見上げ、ハルはモリトを見下ろした。小さな手が仲良く繋がれているようで、実は一方が強く掴んでいるだけだと気づく者はどれくらいいるだろうか。  不安がっているモリトを無視して、ハルは視線を外しサリバンを見上げた。大きな男だと思う。それと同じくらい、狡猾さが見える。それが怪訝そうな目を向けている。 「ロンドネルに戻ろう、モリト」 「何も終わってないよ」 「カルフさんはいらないって言ったしルフュラも探さないとでしょう?」 「でも……」  握られる手に力が入る。ハルは一瞬わけがわからない、というような顔をした。 「モリトはここに来る前、手助けてあげようって言った。それは興味本位だったでしょう? もし本当に、根本的に全てを解決するなら」  いつになく口が良く回る、と感じながらハルは続ける。 「この人と一緒に戦場に立つことになる。でもそうしたら軽い気持ちじゃ終われない」  ハルは膝をついてモリトと目を合わせた。 「狡猾な人間は果ての無い欲望みたいなものよ。次はこれって言って、どんどんわたし達を利用するわ。……もうここを出ましょう?」 「でもボクは、もう少し見てみたいんだ」 「ここが危険なのはわかるでしょう? どうしてカルフさんに固執するの? 彼くらいの人なら、探せば他にもいるわ。それじゃダメなの? どうして?」  モリトは迷うように視線を彷徨わせる。  そのとき、 「――ま、待ってくれよ!」  周囲の誰かが叫んだ。その声は続ける。 「アンタ原種なんだろう!」 「違うって言ってるじゃない」 「じゃあ何でベヒモスを倒せるんだ、そんなのおかしい事だろう!」  何を言っているのだろう、この男は。 「俺達は悪魔に家を壊され、家族を殺され生きてきた! それなのに何で原種のアンタが逃げるんだ!! 紋章の悪魔とだって戦えるんだろう!」 「そうよ!」  驚きに瞬いたハルに、別の女が食いつく。 「力ある者がそうじゃない者を助けるのは当たり前の事よ!」 「それをしないなんて不誠実だ!」 「そうだ! そうだ!」 「どうして助けてくれないの、こんなに苦しんでるのに!!」 「悪魔を全部殺してくれよ! あんた強いんだろう!?」  最初は少なかった声が、次第に大きく、多くなっていく。咄嗟にモリトを抱え、耳をふさいで視界を閉ざした。 「人殺し!!」 「そうだ、俺達を見捨てるアンタは人殺しだ!」 「自分さえ良ければいいのか、俺達に死ねって言うのかよ!」 「悪魔に殺されるのはいやぁ……」 「家に帰りたい、返してよ!!」 「領地を出て行きたくないわ! ここにいたいの!」 「お願いします! 私達を守って!」  周囲の輪が縮まって、ハルを追い詰めようとする。 「止めてください!!」  カルフが叫んだ。  彼はハル達を庇うように立った。輪の者達がなぜだと彼を睨みつける。 「この方は融資のためにここへ来ました、オンドロード領に、融資してくれると仰った恩人です! これ以上求めるのは強欲ではないのですか!!」 「融資なんて、住めなくなったら関係無いじゃない!」 「そうだそうだ! お前は外から来たからわからないだけだろう!」 「そんなのは詭弁だ!!」 「何だと!」  がたいのいい男がカルフの胸ぐらを掴み上げた。 「外から見てる方とずっと内側にいる方とじゃ、見える世界が違う! ずっと耐えてきた、だがもう限界なんだ! 家を失い土地を失い、明日がどうなるかわからない苦しみが、お前にはわからない!」 「だからと言ってただすがり、足を折って頭を下げ、情けないとは思わないのですか! その体のどこにも傷はなく、腕が千切れたわけでもないじゃないか。矜恃はないのか、誇りはどこへ行った! こんな子供に戦場へ行かせ、あんたは後ろで守られてるだけなのか!」 「お、俺は……っ! こいつらは戦う力を持っている。俺はただの農夫で、エリート様にはわからねぇよっ」 「わかりません! どうして幼い子供に残酷な地へ行かせようとする! 自分達が助かりたいからじゃないのか。私の故郷はいつから、こんなに情けなくなったんだ」 「悪魔と戦えるわけがないだろう! あいつらは俺達の何倍も大きいし、強い!」 「違う! あなたに覚悟がないからだ、本当に守る覚悟が、勇気が無いんだ」 「なら、お前は戦えるって言うのかよ!」  男を突き飛ばしカルフは襟を正すと周囲を睥睨する。 「ええ。私は戦場へ行きます。あなたとは違う、故郷を守りたいという意志がある!」 「銀行マン様が偉そうに……犬死にだぞ!」 「それでも、私は私のやり方で戦います。罵られても、ここで死ぬ方がいい!!」 「――なるほど」  静観していたサリバンは組んでいた腕を解く。 「確かに一人でも戦える者が欲しい。しかし、彼の言い分も尤もだ。志し高くとも戦う力がなければ意味は無い。犬死にこそ避けたいと思う」 「しかし」 「君には是非、君の戦い方をしてほしい」 「しますとも! だからこそ、あなた方は私を戦場に連れて行くべきだ」 「盛り上がってるところ申し訳ないけど」  そっと周囲を見回せば目が合った者達から凍り付いた。  嘲笑を浮かべた口元は冷たく、視線は鋼のようだ。 「お前達がすがろうとも、泣こうとも、心動かされたりしない。どうしてだと思う? お前達がわたしの仲間じゃないからよ。たくさん殺されたと言ったわね。お前達もわたしの仲間をたくさん殺したの」 「何を言ってるんだ?」 「わたしにとってのお前達は、お前達にとっての悪魔と一緒なのよ」  ぞっとするような冷たさを持って言葉は告げられる。  それを和らげるようにモリトは自分の瞼を覆う手を撫でた。 「ハル、手をどけてよ」 「だめよ」 「どうして?」 「汚いからよ」 「本当に?」  口ごもったハルを責めるわけでもなく、諭すわけでもなく。モリトは確信に満ちた声音で告げる。 「でも、綺麗なものもあるでしょう?」 「……………」 「手をどけて、ハル」 「いやよ!」  悲鳴じみた声を上げたのはハルだ。困惑したように、カルフは尋ねる。 「ハルさん?」 「やめて、見ないで!! それ以上、何も見ないで、心を動かされちゃダメなのよ、わかるでしょう!? あっちへ行ってよ、こっちに来ないで! 今はだめなの、本当に、だめなのよ!」 「ハル……ボクの目を塞がないで。聞こえないようにしてしまわないで。ハルが見た物をボクも見たいよ。ボクからそれを取らないで、知りたいんだ」  必死で押さえるも、モリトが腕を振り払った。周囲にうずくまる民衆を見て、カルフを見て、言葉を無くしたように立ちすくんでいる。 「後で、後でちゃんと教えるから。お願い見ちゃダメ、モリト。見ちゃダメ!」  しかし、驚いたように目を見開いたままの少年は固まったように動かない。言葉も耳に届かない。  ハルはその小さな背中に額を押しつけたが、それすらも気付いた様子はなく、 「びっくり、した。本当に、本当にかすかだったのに……」  取り憑かれたようにカルフの手を取る。皮膚の下から溢れる輝きは蛍のように淡かった。しかしどうだろう、今は目を見張るほど膨れ上がっている。 「これが、短命種」  不穏な物を感じたハルは総毛立った。それを裏付けるようにモリトは続ける。 「ごめんねハル、ボクはもう少し見てみたい。変わることをするこの人を見てみたい」 「絶対ダメ!!」 「それでも!」 「嫌よ!」  絶叫は空気を振るわせる。ハルは全身から噴き出す冷や汗を押さえるように、自身を抱きしめた。 「どうしたんだ?」  戸惑うようにサリバンが呟くが誰も取り合わない。 「わかるわ、わたしも同じ事を思ったことがある。でも一度だって、ただの一度だって良かった終わりはなかったのよ」 「なら、ハルが行かなくても、ボクが行くよ」 「もっとダメよ。……わたしに行けって言うの」  もしこの時、サリバンを見た者がいたらば、ほくそ笑む姿を目にしただろう。  客も逃げるような三文芝居。しかしそれは現実で、観客達は命がかかっている。主役を踊らせるためなら何でもするだろう。退場しようとする役者の足を縫い止めて、壇上に放り込むくらいは。  わかっていてモリトは階段を下りないのだろうか。ならばハルも降りられない。観客達の足を蹴散らし、劇場の外へ歩けない。 「違うよ、ハルはお留守番してていいからね。ボク、一人で大丈夫だよ」 「わたしだけが行く事と、モリトが行くことは、まるで意味が違う。自分が今までされてきたことを割り切れるの? わたしはできない! オンドロード領が悪魔に奪われてもわたし達は生きていける。パイロン王国っていうこの国が滅んでも生きていける。亜人が滅んでも、獣人がいなくなっても、人間が絶滅しても生きていける!」  降りろ、とハルは願った。今なら神に伏してもいいとすら思いながら懇願する。 「モリトが助けたいって思うのはそう言う生き物達で、他の仲間の誰もが見捨てたって怒らないよ。だってそれは見捨てるって事ですらないんだから!」 「わかってる。わかってるよ、ハル。ハルが嫌がっている理由も、手を貸したくない意味も。それでも――ボクは約束します。カルフさんと一緒に悪魔を退けるんだ」 「どうして!!」  神の規律がモリトに絡みついたのがわかった。これで言葉は違えられない。 「カルフさんを見たい、ただそれだけだったのよね。……綺麗な人のために綺麗事をする。心躍る衝動は確かにわたしの胸にもある。認めるわ、善行をすると気分がいい。でも、それはこの人達とセットなのよ。皆が綺麗で、助けたいって思うわけじゃない」 「ハルがボクを守るように、ボクだってハルを守りたいよ」  ハルのすりむいた手を小さな指で撫でながらモリトは呟くが、それは一見、全然関係ないことのように思えた。 「ハルみたいにたくさんの悪魔は狩れないけど、その代わり、ここを守りたいよ」  そっと左胸を押し上げた手の平を伝って、胸の鼓動が伝わってくるのをモリトは感じる。ハルは気づいていないが傷付きやすい心を持っている。だからこそ、嘆きながら生きている。 「だから短命種の可能性に賭けたいんだ」 「可能性……?」 「そう! だから、いつかでいいよ。この関係を何て言うか気付いてね。それまでずっと、手を繋いでいるから」 「……わからないよ。何を考えてるの」  あの日の夜みたいにハルは言い、問いかけるがモリトは答えない。  そして話題を変えた。 「助けることが嫌じゃないって聞いてボクはうれしいよ。もちろんボクだっていろいろ考えることはあるし、悔しい思いだってある」  突然大海原に浮かぶ板のように心許ない気分になった。  カルフを見上げると、彼は渋い顔をしている。その顔に心配そうな心を見つけてうつむく。 「でも、ボク達には枠組み以外の共和が必要だよ。この世界はもう神木ボクハルだけがいた世界じゃなくなった。関わらない事なんて無理だ」  それは心を散り散りにしてしまうほどの痛みをハルに与えた。 「おじさん、ボクは参戦する」 「ああ……だが」 「ハルより頼りなく見える? 安心するといいよ、ボク達は約束を守る種だから。――ハルの手当をしたいな。行ってもいいでしょう?」 「……ああ、後で来てくれ」 「ううん。次に会うときは戦場」  ゆっくり消えた二人を見送ると、カルフは周囲を見回した。目が合った者達はびくりと震えて、慌てて散っていった。 「よくも、余計なことをしましたね」 「どうも本来とは違う方向に行ったみたいだが……俺は頼む人間とやり方を間違ったみたいだ。……最初からあんたに頼めばよかったな」 「だとしても、引き受けなかったでしょう」  睨みつけるカルフに不可解な物を感じ、サリバンは眉を上げる。 「なぜかと聞いても? さっきも思ったが、なりふり構ってられないのはわかっているんじゃないか?」 「あなたは王国騎士なのに知らないのですか? 王国も深刻な人材不足ですね」  嘲笑混じりの嘆息を受けるが安い挑発だと黙殺する。 「なるほど、それなら国営銀行の人間はさぞ優秀なんだろうな」 「あたりまえです。地方勤務から中央支店に異動になった男ですよ? これでも真面目に仕事をしてきました。私が死んだら困る上司がいましてね」  そういう事か、とサリバンは頭をかく。 「なるほど、国内にある無傷な戦力だが……結果的に四方から怨まれることになるぞ。悪魔は水のように際限なく湧いて出る」 「もう遅いですよ。私が手紙を送ったのは昨日の時点です。そろそろ応援が来ます。銀行員を守るこわーい警備員さんが。衛士隊の代わり以上の戦力です」  銀行員のバッチを見せつけるようにしながら、国の下僕は笑う。  パイロン銀行は国営銀行である。  そして国営銀行には日夜、金庫破り、強盗、テロリストに破壊される危険と隣り合わせだ。それ故、銀行独自に組織された警備部がある。業務内容は簡単に分けると三つ。銀行の金を盗む「お客様」の排除と取り立てに行く銀行員の護衛。そして、銀行員に手を出した馬鹿共の粛正。ヤクザまがいの、とびきり評判が悪い部署である。  もし不当に銀行員が殺されたと知ったなら、警備員達はたとえ魔王だろうと神だろうと報復活動を開始するだろう。 「私が死ねば彼らは止まらないでしょう。たとえ相手が誰であっても叩きのめさなければ恐怖が薄れる。それに我慢できない連中なんです」 「旦那、今のうちに謝っといた方がいいぜ。やつら敵と見なしたら地平線の果てまで追ってくる」  それまで黙っていたラセットが言えば、サリバンは苦笑した。 「俺も焼きが回ったな。ソルートの言った通りになった」  でも、と続ける。 「俺の首一つで悪魔が追い出せるならそれでいい。俺の任務は悪魔をたたき切って領民を守る事だからだ。……しかし、俺の知ってる人はさっきので頷いてくれたんだがなぁ」 「そりゃ状況も人も違うからだろ……」  成り行きをずっと見守っていたラセットは、だめだこりゃと首を振った。